槻欅

私について、色々と。

帰りたい

 これほどまでに堕ちるとは。

 街で浜学園日能研のリュックを背負った小学生を見かけるたびに、もう十年も昔の日々を回顧し、現状との落差を突きつけられ、途方もない失意に陥る。灘や甲陽といった頂点には届かぬものの、それら最上位の後に続いて行くのだという自負はあった。大抵のものは、頑張り次第で手の届く位置にあり、社会へ出る恐怖など微塵もなかった。無論、無知から来るところも大きいではあろうが、それでも一定の根拠を以て、自信と希望を胸に生きていたのだ。まさか、二十歳の自分がここまで堕ちているとは、夢にも思わないほどに。

 今の私には自信も希望もない。いつの間にか、発することに臆し、見上げるたびに劣等感に苛まれるようになった。確かに、高校受験に失敗し、名前の聞いたこともない高校に進学する羽目になった時も、一年間浪人した甲斐も虚しく、当初は妥協して志願した大学すら落ちた時も、この傾向は強まった。だが、なによりも私の心を抉ったのは、この大学に進学したことだ。今でも母校であり、「故郷」だと思い続けるあの中学を辞めたことも、高校受験に失敗し、名前も知らない高校に進学する羽目になったことも、全ては大学受験で取り返すつもりだった。大学受験で「故郷」へ帰り、新しい母校に生きるつもりだった。しかし、この有様である。母校からここへ進学する者など皆無と言っても過言ではない。取り返すことはできず、「故郷」には帰れなかった。そして、この一年、藁にもすがる思いで妥協に妥協を重ねたが、またしても、である。仮面浪人さえも失敗した今、過去の自分との深い断絶を感じ、堕落しきった自分を情けなく、もう戻れない日々を愛惜しく思う。

 街で見かける、自信と希望でいっぱいの浜学園日能研のリュックたちは、思わず目を背けたくさせるが、それでもやはり愛惜しい。

 

 ああ、帰りたい。